「臨床」は、もともとは医療の分野で使われている言葉です。それを建築の分野に当てはめてみたらという発想です。
住宅を設計した後、その建築主と長くお付き合いをさせていただくことは、設計者にとっては大変うれしいことです。そうした中から、家族の変化に合わせて、住まい方について一緒に考えていく。建築主と設計者のある意味理想的な関係です。でも、全部がそういった関係を維持できるわけではありません。特段に親しい友人ということでもなければ、どちらが親か子かはともかくとして、引き渡しの時点でいったんは親離れ・子離れをすることも必要かと思います。
一方、私が建築相談会で相談員になった時や、何かしらの調査でお住まいにお邪魔した時に、住まいのリフォームや増改築、あるいは処分などについて誰に相談をしたらいいかわからないということをよく聞かされます。
住まいや暮らしに関する専門分野は多岐にわたります。でも、それらは別個に対応しているだけで、少なくとも専門分野間での協働というシステムは組み込まれていません。
それを何とかできないか、と考えていた時に「臨床住居学」を発想したという次第です。
確かなイメージがあるわけではありませんが、建築主に寄り添うように、つまり伴奏型ですね、そうしたスタンスで住まい手の様々なニーズに対応できる職能や手法は何なのかと思考をめぐらしていました。
さて、それをプロフェッショナルの仕事にするためにどうしたらいいでしょうか。やはり専門性を持ったプロの業務分野になるので、適正な報酬がないと対応することができません。
建築主の経済的負担をできるだけ少なくし、対応するプロフェッショナルに適正な報酬を保証する。そんなうまい手立てがあるのだろうか。そんな試練にさらされます。
そこで考えたのが「国民住宅保険」です。
私の記憶では30代の後半、つまり西暦でいうと1980年代にこんなことを考えていたようです。これに加入していたら、*割負担で済む。そこからプロフェッショナルに報酬が支払われる。こんな仕組みがあれば、住み手も建築設計者も応分の負担と報酬で成り立つのではないかと考えていたのですね。